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抗凝固療法の適応 ワーファリンとDOACどちらを使う?

2017/02/25
 
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「先生、新しいお薬が増えてから、お薬代が急に高くなりました。」

 

 

Kさんに処方されたお薬のDOAC(新しい抗凝固薬)について、病態的になぜ必要なのか、ワーファリンを選ぶことと、DOACを選ぶことのメリットとデメリットについて調べてみました。

 

血栓を形成する病気、用いられる抗血栓薬

血栓は、静脈などの血流速度が遅い場所でできる血栓と、動脈など血流速度が速い部分でできる血栓に大別されます。静脈でできる血栓は血液凝固因子が原因となって血栓を形成します。一方で動脈でできる血栓は血小板が原因となって血栓を形成します。

静脈系血栓ー抗凝固薬

静脈で血栓を形成する代表的な疾患として、心房細動と、深部静脈血栓症が挙げられます。

 心房細動脳梗塞を起こすことで有名です。

一方で、深部静脈血栓症はエコノミークラス症候群とも言われ、

 肺動脈血栓塞栓症を起こすことで有名です。

どちらも発症すると命に関わるとても怖い病気です。

合併すると命を失う危険性があるため、心房細動も深部静脈血栓症も抗凝固療法の適応となります。

 

心房細動

心房細動はオシム監督や、長嶋監督のように脳梗塞を合併することで有名です。

心房内でできた血栓が遊離し脳血管を詰まらせるとても怖い病気です。どれくらいの人が、脳梗塞を合併してしまうかは、その人がどの程度、血管の病気を持っているかによります。

まったくリスクのない心房細動の患者が100人いたとすると、1年間で100人のうち、0人-2人くらいが脳梗塞を合併すると言われています                                                                               (CHA2DS2-VASc 0点:0%,1点:1.3%,2点:2.2%  CHADS2 0点:1.9% )。

1年間に100人のうち2人だとすると少ないとは言えないですね。

脳梗塞になるくらいなら、抗凝固薬を飲んだ方が良いのではないかと思ってしまいます。

しかしながら、抗凝固薬には出血してしまうという副作用があります。

中でも頭蓋内出血は命に関わる重篤な状態に陥る可能性があります。

 

日本人が抗凝固薬を内服して、1年間で頭蓋内出血を発症する人は、0.6人~1人と言われています。

日本循環器学会ガイドライン (心房細動治療(薬 物)ガイドライン(2013年改訂 版)

薬を飲むことで得られる脳梗塞予防の利益と、薬を飲むことで合併する致命的な出血のリスクを比較して、リスクが予防を上回った場合、薬を飲むことにメリットはありません。

これはとても大事なことだと思います。

脳梗塞を合併するリスクは人によってそれぞれです。

また、どの抗凝固薬が出血を起こしやすいかは、薬によって、患者さんの状態によって異なります。

 

外来で抗血栓薬を処方するとき、処方する医師は必ず、そこを計算して出しています。

この人の塞栓のリスクは。どの薬を選択すれば、出血が少なく、塞栓の予防効果が一番得られるか。

それを知るには、すべての抗凝固薬の特徴を調べる必要があります。
⇒DOACの種類、特徴、それぞれの薬価の違いは?

肺動脈血栓塞栓症

 

 

動脈系血栓ー抗血小板薬

動脈で血栓を形成する代表的な疾患として、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症が挙げられます。

 いずれも抗血小板薬の適応です。

詳細は後日、また調べて解説します。

DOACの比較

DOACの種類、特徴、メリット

DOACには、現在ダビガトラン(プラザキサ®)、リバーロキサバン(イグザレルト®)、アピキサバン(エリキュース®)、エドキサバン(リクシアナ®)があります。

特徴は、ワーファリンがビタミンKを阻害することで、多くの凝固因子の活性化を阻害するのに対し、DOACはトロンビンやⅩa因子を選択的に阻害するという点です。

そのため、ワーファリンは食事に影響を受ける種々の凝固因子が減少して、効果が安定するまで数日間かかるといった特徴があります。

DOACは単一の凝固因子に作用するため、ワーファリンと比較し、食事による影響がない服用後速やかに効果が表れる頭蓋内出血が著しく少ないという点が特徴です。

特に、頭蓋内出血が少ない点は強調されるべきポイントだと思います。

脳には第Ⅶ因子が豊富にあり、ワーファリンは第Ⅶ因子を阻害することで、頭蓋内出血を増加させます。DOACは第Ⅶ因子には作用しないため、頭蓋内出血に関する安全性の点では、ワーファリンより優位であるということができます。

中村真潮;医学書院meditina 2015.12月pp2292-2295; 一部改変して引用)

DOACのデメリット

前提として、DOACは弁膜症性心房細動には使用できません。

さらに、DOACには、大きく3つのデメリットがあります。

  1. 腎機能、年齢、体重等に影響を受けること
  2. 飲み忘れにより速やかに効果が消失してしまうこと
  3. モニタリングすることができない(する必要がない)ため、患者さんの状況に応じて正確な用法用量を守らないと、気が付かないうちに効果が発揮できないまま続けている場合があること

です。

一見、モニターする必要のない万能な薬に見えますが、

出血が怖いからと言って用法用量を守らず減量すると、

効果が得られないどころか、副作用だけ生じてしまうという状態に陥りかねません。

DOACの特徴をしっかりと理解して、処方することが重要だと思われます。

ダビガトラン(プラザキサ®)

プラザキサ®は唯一の直接トロンビン阻害薬です。

2016年9月、DOACで初めて特異的中和薬(イダルシズマブ(商品名:プリズバインド))が承認された薬でもあります。

腎排泄が約80%と非常に高く、DOACの中では最も腎機能障害の影響を受けやすいです。したがって、腎機能障害のある患者さんでは、血中濃度が上昇し、重篤な出血の危険性が高まります。

そのため、投与中は適宜腎機能検査を行い、腎機能の悪化を認めた場合には投与の中止や減量を考慮することが求められます。クレアチニン・クリアランス30mL/min未満の高度腎障害には禁忌です。

半減期は12-14時間で、最高血中濃度は0.5-2hで到達します。

150㎎2錠分2と、110㎎2錠分2の用量があります。

150㎎2錠分2の容量は、RELY試験で脳梗塞発症率をワーファリンより優位に低下させましたが、消化管出血を増やしました。75歳以上の患者さんには消化管出血に注意する必要があります。

70歳以上、消化管出血の既往、クレアチニン・クリアランス30-50ml/分、P糖蛋白阻害薬内服中のいずれかが当てはまる場合には、110㎎2錠分2を選択してください。

土橋内科医院院長ブログ

(NOACのリアル・ワールドにおける消化管出血リスク:BMJ誌)

結論:ダビガトランは(解剖学的部位にかかわらず)大出血リスク増加に関係有り。特に消化管出血を増加させたが、頭蓋内出血は減らした。ダビガトランは特に高リスク患者では、注意して使うべき。

RE-LY試験は150mgの大出血はワルファリンと同等で、頭蓋内出血は半分以下、消化管出血は約1,5倍で有意に増加しておりましたので、類似していますが、今回データはさらに消化管出血が多い結果となっています。

RE-LYでは75歳未満では消化管出血はダビガトランで低く、75歳以上で高くなったのですが、本試験は年齢に関わらず一貫して高いとのことです。

 

ダビガトラン(プラザキサ®)まとめ

  • 脳梗塞のリスクが非常に高い患者さんにはダビガトラン150㎎2錠2X
  • 高度腎機能障害症例(CCr30未満)には禁忌
  • 特異的中和薬(イダルシズマブ(商品名:プリズバインド))がある
  • 75歳以上の患者さんには消化管出血に注意

    ⇒70歳以上、消化管出血の既往、CCr30-50ml/分、P糖蛋白阻害薬内服中の場合         110㎎2錠分2を選択

リバーロキサバン(イグザレルト®)

第Ⅹa因子阻害薬です。

1日1回のお薬です。

半減期は5-13時間で、最高血中濃度は0.5-4hで到達します。

ROCKET-AF試験で、ワーファリンと比較し、効果は同等もしくは優位で、消化管出血は多く、頭蓋内出血・致死的出血が少ないことがわかりました。

●非弁膜症性心房細動に対しては、通常用量は15㎎1錠分1です。CCr50未満の場合は10㎎1錠分1への減量が必要です。

こちらもプラザキサ同様に75歳以上では消化管出血の合併に注意が必要です。

●静脈血栓塞栓症に対しては、15mg 2錠分2を3 週間投与し、その後15mg 1錠分1に減量して維持します。

 

リバーロキサバン(イグザレルト®)まとめ

  • 75歳以上の患者さんには消化管出血に注意
  • 1日1回
  • 非弁膜症性心房細動 15㎎1錠分1  
  • 静脈血栓塞栓症 15mg 2錠分2を3 週間投与し、その後15mg 1錠分1に減量

   ⇒CCr50ml/分未満は10㎎1錠分1を選択

アピキサバン(エリキュース®)

第Ⅹa因子阻害薬です。

こちらは、1日2回のお薬ですが、腎排泄が少ないため、腎機能障害のある患者さんでも安全に使用できることが特徴です。これは、腎臓以外に、肝臓・腸管で排泄されることが理由です。

半減期は8-15時間で、最高血中濃度は1-4hで到達します。

ARISTOTLE試験で、CCr50未満や、75歳以上でも、ワーファリンと比較し、出血が少ないことがわかりました。

●非弁膜症性心房細動に対しては、通常用量は5㎎2錠分2です。

80歳以上、体重60㎏以下、Cr1.5mg/dl以上のうちいずれか2つ以上を満たす場合には      2.5㎎2錠分2への減量が必要です。

他のDOACと比較し減量基準が緩めに設定されていますが、上記の試験が根拠となっています。

 

もちろん、基準を満たさない減量はエビデンスがないため避けるべきと思われます。

●静脈血栓塞栓症に対しては、10mg 2錠分2を7日間投与し、その後5㎎2錠分2に減量して維持します。

 

アピキサバン(エリキュース®)まとめ

  • 1日2回 腎排泄少なめ
  • 出血リスク低め
  • 非弁膜症性心房細動 5㎎2錠分2
  • 静脈血栓塞栓症 10mg 2錠分2を7日間投与し、その後5㎎2錠分2に減量

 

    ⇒80歳以上、体重60㎏以下、Cr1.5mg/dl以上うちいずれか2つ以上を満たす場合         2.5㎎2錠分2を選択

エドキサバン(リクシアナ®)

第Ⅹa因子阻害薬です。

1日1回のお薬です。薬物が少しづつ組織から血中へ移行するため、1日1回の投与が適しています。

整形外科領域の深部静脈血栓症に当初使用されてきたという特徴があります。

半減期は10-14時間で、最高血中濃度は1-3hで到達します。

ENGAGE-AF TIMI48試験で、ワーファリンと比較し有効性は非劣勢、安全性は優越性が示されました

●非弁膜症性心房細動に対しては、通常用量は60㎎1錠分1です。

体重60㎏以下、CCr15-50ml/分、P糖蛋白阻害作用のいずれかを満たす場合、         30㎎1錠分1への減量が必要です。

もちろん、こちらも基準を満たさない減量はエビデンスがないため避けるべきと思われます。

●静脈血栓塞栓症に対しては、他DOACと異なり、初期用量から用法用量が同じですが、ヘパリンの前投与が必要となります。

エドキサバン(リクシアナ®)まとめ

  • 1日1回
  • 当初から静脈血栓塞栓症に適応あり
  • 非弁膜症性心房細動 60㎎1錠分1
  • 静脈血栓塞栓症 心房細動と同量だが、ヘパリンの前投与が必要

    体重60㎏以下、CCr15-50ml/分、P糖蛋白阻害作用のいずれかを満たす場合、         30㎎1錠分1への減量が必要です。

DOACの薬価

 お薬Q&A ~Fizz Drug Information~

新薬があっても、古い『ワーファリン』が使われているのは何故?~新規抗凝固薬との比較

※抗凝固薬の薬価 (2016改訂時の錠剤)
『ワーファリン』・・・0.5mg(9.60)1mg(9.60)5mg(9.90)
『プラザキサ』・・・75mg(136.40)、110mg(239.30)
『イグザレルト』・・・10mg(383.00)、15mg(545.60)
『エリキュース』・・・2.5mg(149.00)、5mg(272.80)
『リクシアナ』・・・15mg(294.20)、30mg(538.40)、60mg(545.60)

DOAC VS ワーファリン

 

DOACの特徴、ワーファリンの特徴

DOACの特徴

  1.  薬効が安定して期待できるため、モニタリング不要(モニタリングするすべもない)
  2.  効果が速やかに現れ、速やかに消失する(飲み忘れは危険)
  3.  選択的に凝固因子を直接阻害するため、頭蓋内出血が少ない
  4.  薬剤によっては、高齢者の消化管出血が多い
  5.  腎排泄が多いため、腎機能障害患者は出血のリスクが増加する
  6.  適切に減量基準を守らない場合、出血が増加したり、効果が得られない可能性がある
  7.  弁膜症性心房細動には適応がない
  8.  出血したときに拮抗薬がない(2016年9月 ダビガトラン(商品名:プラザキサ)の特異的中和薬イダルシズマブ(商品名:プリズバインド)が承認)
  9.  高価
  10.  DAPT内服中の患者で3剤併用療法の際にワーファリンより出血が少ない

ワーファリンの特徴

  1.  モニタリングすることができる。
  2.  食事(納豆、クロレラなど)に影響を受ける
  3.  効果が表れるのに数日かかり、効果が切れるのに数日かかる
  4.  第Ⅶ因子を阻害するため、頭蓋内出血が多い
  5.  高齢者や腎機能障害患者に対してもPTINRを指標に管理できる
  6.  弁膜症性心房細動には適応がある
  7.  出血したときに拮抗薬がある
  8.  安価

DOACの有効性(vsワーファリン)

脳卒中/全身塞栓症

プラザキサ150㎎2錠分2、エリキュースで減少、他は同等

全死亡への効果

エリキュースで減少、他は同等

虚血性脳卒中

プラザキサ150㎎2錠分2で減少、他は同等

DOACの安全性(vsワーファリン)

大出血

プラザキサ110㎎2錠、エリキュース、リクシアナで抑制効果あり

頭蓋内出血

全てのDOACで一貫して大きな抑制効果あり

年齢による出血率

エリキュース、リクシアナ30㎎で75歳以上の高齢者で大出血を抑制

ダビガトランは若年者(65歳未満)で大出血リスクを大きく抑制

腎機能低下例での出血

腎機能低下に伴い出血頻度は上昇

エリキュース、リクシアナでワーファリンよりも抑制

消化管出血

プラザキサ®220㎎/day、エリキュース10は同等の効果

プラザキサ®150㎎2錠分2、リバーロ出血のリスク軽減

DOACに適した人、ワーファリンに適した人

DOACに適した人

  • 若い人
  • 腎機能障害のない人
  • 飲み忘れしない人
  • 頭蓋内出血のリスクの高い人
  • DAPT内服中の患者
  • 術前術後で休薬の可能性のある人

ワーファリンに適した人

  • 弁膜症性心房細動
  • 人工弁置換術後
  • 腎機能が高度低下している人
  • 高齢、低体重

まとめ

ここ数年間、さまざまな抗血栓薬が認可されており、現場では時に混乱することがあります。

しかしながら、すべてにおいて基本的な考え方は、抗血栓薬を内服することにより得られるメリットが、副作用である出血のデメリットを上回るかを考えた上で処方することだと思います。

そのために必要なことが、薬剤の適応、種類、用法用量を把握して、患者さんの背景に合わせて処方することなのだと思います。

 

さて、次回は1か月後、外来での会話を紹介して終わりです。

 

終わりに

DOACのエビデンスは日進月歩です。

最新の知見をご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教授ください。

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