脂質異常症に対して薬物療法は必要か
「30代の時から、健康診断でコレステロール値が高いと言われました。親、兄弟も高いです。」
目次
引き続きRさんが内服加療が必要かどうか、
根拠を調べながら説明していきたいと思います。
脂質異常症に対する薬物療法
まず、考えてみましょう。
これから述べるような人たちが受診したとします。
どの人が内服加療が必要でしょうか。
- 40歳の男性。検診で初めてLDLコレステロール値165mg/dlを指摘され、外来を受診。
- 45歳の女性。検診でLDLコレステロール値 157mg/dl を指摘され、外来で運動・食事療法が開始され1か月経過。2回目の外来では、LDLコレステロール値が146mg/dl にやや改善していた。
- 35歳の男性。父親が56歳の時に心筋梗塞になったため、早めに健康診断を受診。LDLコレステロール値 220mg/dl を指摘されて、初めて外来を受診。
- 75歳の女性。70歳で狭心症となり、コレステロールに対する内服加療が開始。 本日の外来でLDLコレステロール値117mg/dl。
どの人も悪そうです。。。
しかし、実はこれだけの情報で直ちに内服加療が必要と判断できるのは、4番の女性しかいません。
他の3人の方は、これだけでは、判断できないというのが答えです。
一体なぜでしょうか。その理由は
- コレステロール値の目標値は、遺伝性であるかどうか、冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症など)の既往があるかどうかによって大きく異なるから
- 遺伝、既往がない場合にも、その人が今後どれくらい心筋梗塞を起こす可能性が高いかは、コレステロールの値の他、たくさんの因子によって左右されるから
- まずは食事・運動療法を行うことが前提であるから
といったところによります。
ここでは、以下のまえだ循環器内科さんのホームページを参考に、質問に答える形で説明していきたいと思います。
なお、このホームページの元々の情報については2005年とかなり古いため、最新の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017』最終案などを参考にしながら、説明を加えていきます。
動脈硬化の因子と、脂質異常症の目標値
「コレステロール値が高いとなぜ悪いのか」
それは動脈硬化が増え、特に狭心症や心筋梗塞が増えるからです。
- 全身の血管は、動脈硬化がおこると、血管の壁が厚くなり、また血管の壁に酸化して変性したコレステロールがたまります。変性したコレステロールの塊は狭心症や心筋梗塞の原因となりますが、血液中のコレステロールが多いことだけが動脈硬化の原因ではありません。血管の内面を傷つけたり、コレステロールを酸化させるようなものがあるかないかにより、動脈硬化の程度が異なります。
ゆえに、コレステロール以外に、動脈硬化の原因となる因子をどれくらいその人が持っているかにより、動脈硬化のリスクが異なります。
「コレステロール以外の動脈硬化の原因とは何か」
- 動脈硬化の原因の中でも心筋梗塞や狭心症をおこしやすくする因子を動脈硬化危険因子と呼んでいます。
主な危険因子に、たばこ、高血圧、糖尿病、脂質異常症、加齢、家族の早発性冠動脈疾患の既往などがあります。 家族性高コレステロール血症である、既に狭心症や心筋梗塞にかかったなども重要な危険因子となります。これらの危険因子の数が多いほど心筋梗塞の危険性が増加します。「コレステロールの目標値は」
一つの数字を挙げることはできません。心筋梗塞になる危険度の高い人は、より低く、そうでない人は少し高くても構いません。
●その人が今後10年間で心疾患を発症するリスクがどれくらいあるかを予測するスコアからその人の危険性を予想します。(吹田スコア)
●吹田スコアは、日本人の10年間の冠動脈疾患の発症を予測するスコアです。欧米人に比べ、低いと言われている日本人の心筋梗塞発症リスクをより正確に評価します。また、近年冠動脈疾患のリスクとして注目されている慢性腎臓病も新たに因子として評価項目に加えられているという特徴があります。冠動脈疾患を予測する新しいリスクスコアの開発 | プレスリリース | 広報活動
まとめ
- コレステロールは、動脈硬化を進行させ、狭心症・心筋梗塞を増やす
- 動脈硬化の因子には、たばこ、高血圧、糖尿病、脂質異常症、加齢、家族歴(早発性冠動脈疾患の既往)、家族性高コレステロール血症、狭心症や心筋梗塞にかかった既往などがある
- コレステロールの目標値は、動脈硬化因子の有無により、人それぞれである
- 日本人は、心筋梗塞のリスクを吹田スコアで予測する
次回のテーマ
コレステロールの目標値を決める3大因子、家族性高コレステロール血症の有無、心疾患の既往の有無、吹田スコアについて